小獅子の尾

芸術大学の通信教育部に通う20代女子の雑記

読書の感想『嵐が丘』エミリー・ブロンテ


通信制大学の講義の中で、読んでもいないヨーロッパ文学に関するレポートを書いた事にモヤモヤしていたのですが、ついに『嵐が丘』を読破しました。

数ある文学作品の中から『嵐が丘』を選択した理由は、ブロンテ姉妹に興味を持っていた事と、「ヒースクリフの様な人に愛されたい」という感想を何度か耳にしたからでした。

結果的に、ヒースクリフは激しすぎますし、私はヒースクリフの様な人に愛されたいとは思いませんでしたが、色々と思う所があったので感想を書きたいと思います。

あらすじ

物語は<嵐が丘>の主人の娘・キャサリンと、<嵐が丘>の主人に拾われた肌の色が黒い孤児・ヒースクリフを中心に展開します。

ヒースクリフは<嵐が丘>の主人には可愛がられ、キャサリンとも幼少の頃から仲睦まじく、互いを想い合う関係でした。

しかし、その為に若主人からは嫌われ、虐待を堪え忍ぶ様になります。

やがてキャサリンは<鶫の辻>のエドガーと結婚し、絶望に打ちひしがれたヒースクリフは屋敷を去りますが、やがて莫大な富を得て<嵐が丘>に戻って来ます。

陰鬱な空気とコントラスト

物語はく<鶫の辻>の間借人・ロックウッドが、使用人のネリーに話を聞く形式で進みます。

前半はゴシップの様な話から、徐々に重々しく陰鬱な雰囲気が漂う様になり、登場する人物も実に癖のあるキャラクターばかりです。

過去の記憶を思い起こす様に抽象的で、重苦しい印象を感じました。

その後、キャサリン・アーンショウの娘・キャサリン・リントンが活躍する後半になっても、ヒースクリフの存在によってクライマックスまで物語から陰鬱な空気は払拭される事はありません。

しかし、クライマックスに向かって、物語の登場人物からは、より人間的な感情と躍動感が感じられる様になります。

ラストは、作品全体に感じられる重苦しさが消え、ハッピーエンドを迎えた事で、作中全体を通して漂っていた重苦しい空気と対立する様な構成に、強いコントラストを感じました。

互いを象徴する登場人物

新潮社文庫『嵐が丘』の解説には「第二世代は第一世代のリプレイでもあり反転でもあり」と記載されています。

私はこの解説を読み、漸くこの良く解らないけれど引き込まれる小説の構成を理解しました。

キャサリン・アーンショウとその娘・キャサリン・リントンは同じ性質を持つキャラクターで、<嵐が丘>のリントンとヘアトンはヒースクリフエドガーを象徴する存在なのです。

そして、ヒースクリフは彼自身を虐待し、妻を亡くしたヒンドリーを象徴しています。

私は以前、「現代の文学作品は、物語の筋を追うだけで質が低い」という批判を耳にした事があるのですが、なるほど、文学作品とはこの様な複雑な構成の中に成立する物なのかと一人納得した次第です。

二重のクライマックス

嵐が丘』では、第一世代と第二世代が互いを反映している他にも、キャサリンヒースクリフの関係が死語の世界を通じて語られています。

取り憑かれた様にして、自殺か否かも判別しないままこの世を去ったヒースクリフは、物語の中でキャサリンと共に亡霊として表れた事を、物語の登場人物は語っています。

さらに、キリスト教において自殺は罪で、自殺者は教会の墓地には入れない決まりが作中で語られますが、ネリーは余計な事は語らずに、ヒースクリフを教会の墓地へと埋葬しています。

取りつかれた様な状態で、何日も食事も取らずさ迷い歩いたヒースクリフは果たして自殺であったのか、天国へ至る資格があるのか、読者には解りません。

第一世代ではキャサリンに復讐したヒースクリフを、第二世代ではキャサリンの霊が象徴しているのかも知れません。

ロックウッドが最後に「こんな静かな大地に休らう人々が静かに眠れぬわけがあるだろうか。」と語った所で物語は終わりますが、登場人物全員が幸せになったかの様に思わせるラストは含みが多く、やはり印象的であると言わざるを得ません。




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